Rで ボンフェローニ補正 を確認します。
1. ボンフェローニ補正とは?
なぜ補正が必要か:多重比較の問題
統計的検定では、「本当は差がないのに、偶然のデータのばらつきによって『有意な差がある』と誤って結論づけてしまう確率」を第一種の過誤 (Type I Error) と呼びます。この確率をコントロールするために、私たちは有意水準α(アルファ、通常は0.05や0.01)を設定します。1回の検定であれば、第一種の過誤を犯す確率はα以下に抑えられます。
しかし、同じデータセットに対して何度も検定を繰り返す(多重比較)と、問題が生じます。例えば、有意水準5%(α=0.05)で検定を行うと、20回に1回の確率で偶然有意な結果が出ることになります。もし3つのグループ(A, B, C)の平均値を比較するために、3つのペア(A vs B, A vs C, B vs C)で検定を行うと、少なくとも1回でも第一種の過誤を犯す確率(これをFamily-Wise Error Rate, FWER と呼びます)は5%よりも大きくなってしまいます。
検定回数を n
とすると、FWERは以下の式で近似できます。
FWER ≈ 1 - (1 - α)^n
例えば、α=0.05で3回検定を行うと、FWERは約14.3% (1 - (1 - 0.05)^3 ≈ 0.143
) にもなり、設定した5%を大きく超えてしまいます。これが多重比較の問題です。
ボンフェローニ補正の考え方
ボンフェローニ補正は、この多重比較の問題を解決するための方法の一つです。考え方は非常に単純です。
「個々の検定の有意水準を、検定の回数で割った値に設定し直す」
これにより、全体のFWERが設定したαを超えないようにコントロールします。
- 元の有意水準:
α
- 検定(比較)の回数:
n
- 補正後の有意水準:
α' = α / n
例えば、α=0.05、検定回数n=3の場合、個々の検定は 0.05 / 3 ≈ 0.0167
という非常に厳しい水準でなければ「有意差あり」と判定されなくなります。
実務的には、算出したp値に検定回数 n
を掛けた「調整済みp値 (Adjusted p-value)」を求め、この値と元の有意水準α(例: 0.05)を比較する方法が簡便です。
2. R言語によるシミュレーション
それでは、ボンフェローニ補正の効果をシミュレーションで確認してみましょう。 ここでは、「平均値に全く差がない4つのグループ」のデータを生成し、多重比較を行うという状況を何度も繰り返します。本来差はないので、もし「有意差あり」という結果が出たら、それは第一種の過誤です。
このシミュレーションを通して、以下の2点を確認します。
- 補正を行わない場合、FWERが設定した有意水準(5%)を大幅に上回ってしまうこと。
- ボンフェローニ補正を行うと、FWERが5%程度に適切にコントロールされること。
2.1. 準備
まず、必要なライブラリを読み込みます。
library(tidyverse)
<- 20250706 seed
2.2. シミュレーションの実行
4つのグループ間のすべてのペアでt検定を行います。データ生成と検定を2000回繰り返し、第一種の過誤が起きた割合(FWER)を計算します。
# シミュレーションの設定
set.seed(seed) # 結果を再現可能にするための乱数シード
<- 2000 # シミュレーション回数
n_sim <- 4 # グループ数
n_groups <- 30 # 各グループのサンプルサイズ
n_sample <- 0.05 # 有意水準
alpha
# 比較の組み合わせの数を計算 (4つのグループから2つを選ぶ組み合わせ)
<- choose(n_groups, 2)
n_comparisons cat("グループ数:", n_groups, "\n")
cat("比較の回数:", n_comparisons, "\n")
# シミュレーションの実行
# replicate関数で同じ処理をn_sim回繰り返す
<- replicate(n_sim, {
sim_results # 【データ生成】
# 全グループの母平均は0、標準偏差は1で、差がない状況を作る
<- data.frame(
sim_data value = rnorm(n_groups * n_sample, mean = 0, sd = 1),
group = factor(rep(1:n_groups, each = n_sample))
)
# 【補正なしの場合】
# pairwise.t.testで全ペアのt検定を一括実行
# p.adjust.method = "none"で補正なしのp値を取得
<- pairwise.t.test(sim_data$value, sim_data$group, p.adjust.method = "none")$p.value
p_raw
# 少なくとも1つのp値がalphaを下回るか(=第一種の過誤が発生したか)
<- any(p_raw < alpha, na.rm = TRUE)
error_no_correction
# 【ボンフェローニ補正ありの場合】
# p.adjust.method = "bonferroni"で調整済みp値を取得
<- pairwise.t.test(sim_data$value, sim_data$group, p.adjust.method = "bonferroni")$p.value
p_bonf
# 少なくとも1つの調整済みp値がalphaを下回るか
<- any(p_bonf < alpha, na.rm = TRUE)
error_with_correction
# 2つの結果をベクトルで返す
c(no_correction = error_no_correction, bonferroni = error_with_correction)
})
# FWER(第一種の過誤が起きた割合)を計算
# sim_resultsは行が手法、列が試行回数の行列になっている
# rowMeansで行ごとの平均を計算する (TRUE=1, FALSE=0として計算される)
<- rowMeans(sim_results)
fwer
# 結果の表示
print(fwer)
グループ数: 4
比較の回数: 6
no_correction bonferroni
0.206 0.047
シミュレーション結果から、以下のことがわかります。
- 補正なし (
no_correction
): FWERは約 20.6% となり、本来コントロールしたかった5%を大幅に超えています。6回の検定を繰り返すと、5回に1回程度は誤った結論を出してしまうことになります。 - ボンフェローニ補正 (
bonferroni
): FWERは約 4.7% となり、目標の有意水準5%に近い値にしっかりとコントロールされています。
2.3. 結果の可視化
この結果をggplot2
で可視化すると、ボンフェローニ補正の効果が一目瞭然になります。
# プロット用のデータフレームを作成
<- data.frame(
plot_data Method = c("補正なし", "ボンフェローニ補正"),
FWER = fwer
%>%
) # グラフの表示順を固定
mutate(Method = factor(Method, levels = c("補正なし", "ボンフェローニ補正")))
# ggplotで棒グラフを作成
ggplot(plot_data, aes(x = Method, y = FWER, fill = Method)) +
geom_col(width = 0.6, alpha = 0.8) +
# 目標の有意水準0.05のラインを引く
geom_hline(yintercept = alpha, color = "darkred", linetype = "dashed", linewidth = 1.0) +
# 棒グラフの上に数値を表示
geom_text(aes(label = scales::percent(FWER, accuracy = 0.1)), vjust = -0.5, size = 5) +
# Y軸をパーセント表示に
scale_y_continuous(labels = scales::percent_format(accuracy = 1), limits = c(0, 0.3)) +
scale_fill_manual(values = c("補正なし" = "#d95f02", "ボンフェローニ補正" = "#1b9e77")) +
labs(
title = "ボンフェローニ補正の効果のシミュレーション",
subtitle = paste0(n_groups, "グループ (", n_comparisons, "回の比較) における第一種の過誤の発生率"),
x = "補正方法",
y = "Family-Wise Error Rate (FWER)",
caption = paste0("シミュレーション回数: ", n_sim, "回 / 目標有意水準 α = 5% (赤い破線)")
+
) theme_minimal(base_size = 14) +
theme(
legend.position = "none",
plot.title = element_text(face = "bold"),
plot.caption = element_text(color = "grey40")
)
グラフからわかること:
- 「補正なし」の棒は、目標である5%のライン(赤い破線)を大きく超えています。
- 一方、「ボンフェローニ補正」の棒は、5%のラインのわずかに下に収まっており、第一種の過誤がうまくコントロールできていることが視覚的にわかります。
3. まとめ
今回のシミュレーションを通して、多重比較を行う際に何も補正をしないと、「差がない」ものを「差がある」と誤って判断してしまう確率(第一種の過誤)が意図せず増大してしまうことが確認できました。
ボンフェローニ補正は、この問題を解決するために個々の検定を厳しくするシンプルな手法です。その結果、全体の誤りの確率(FWER)を目的の有意水準(例: 5%)に保つことができます。
ただし、ボンフェローニ補正は非常に厳格(保守的)であるため、本当に差があるものを見逃しやすくなる(第二種の過誤の増加)という側面もあります。そのため、状況に応じてテューキーのHSD法やホルム法など、他の多重比較補正手法が使われることもあります。
以上です。